「日本のコンテンツ、ネットのせいで沈む」とホリプロ社長
経済学には、「市場の失敗」という言葉があります。
経済学の全ての考え方は、ほおっておけば需要と供給の曲線の上にある。消費者の選択に任せておけば、上手にバランスを取ってくれるというのが経済学の最も基本的な考えで、すべての経済学の式はこれを柱にして枝を伸ばして来たと言えますが、本当は全ての状況でコレが上手くいくと言うわけではない。
時には、消費者の選択が市場を狭めて、それがさらに商品の品質に影響を与えて市場を窄めてしまう、悪いスパイラルに陥ってしまう事がある。
一番有名なのはレモン市場と呼ばれる買う前に品質を消費者が知ることが出来ないことから来る問題ですが、市場の失敗の例はほかにも幾つか見つかっている。
ときどき市場は失敗を犯す、という事を知った上で今のコンテンツ産業を取り巻いている状況は本当に正しいのでしょうか?
消費者が馬鹿であったときは一度たりとも歴史の上では無いですが、大抵の場合その反応というのは一番遅い。歴史がそれを証明して、体で結果を、直に感じる様になるまで、常に自分がその場で一番楽な方向に考えを巡らせるのが消費者です。
例えになるか分からない話ですが、91年にバブルが弾けたときに、「この不況は長引く」と警鐘を鳴らした人は、決して少なくありません。ベトナム戦争以降のアメリカ長い不況の時代等を見ていれば、そうなることを理解できる人は一人二人ではなかったですから。小泉政権自体の大臣、竹中平蔵さん等もその一人。ですが最終的に国民全体がそれを理解したのは、2001年の小泉政権発足まで待つことになりました。この間の10年で、何時あなたは改革の必要性を実感したでしょうか?
じゃあ、これから10年後の著作権を考えたときに、今回のホリプロの社長の言っていることは正しくないのでしょうか? 正しい警鐘ではないのでしょうか?
色々な要素を見て、全体を考えたとして、個人的には社長の言うことは正しいと思います。
昨日発売された商品が、次の日にはネットの上に蔓延している。動画共有サイトのおかげで、一般の人でも簡単に閲覧できる。正直、この状況は基本的におかしいというのは議論の余地が無いでしょう。
この影響は、表れ始めていて米国市場での状況等ではそれが顕著です。
「以前はVHSにテープに2話収録して30ドルで売れたのだが、今はDVDに5話収録して20ドル以下にしないと売れない」
全ての人が安い価格でコンテンツを楽しめる事は素晴らしいですが、そのために市場の規模自体が縮小してしまうのはおかしいです
(2007年北米アニメDVD販売は前年比20%減という記事もあります。正直に言いますが何のライバル産業も登場していないのに「成長鈍化」でも、「横ばい」でもなく、マイナス成長というのはありえない事態ですから)
現在の状況は、市場の失敗の中でも、「公共財の存在(フリーライダーによる過少供給)」に近い状況であると言えると私は思います。
では、これで映像コンテンツが絶滅するのかと言うと、なかなかそうはならないとは思います。
(公立の保育園があるからと言って、私立の託児所が商売として成り立たないかと言うとそうではない)
では何処まで下がるのか、というのが実際行くところまで言ってみないと分からない、若干の減少になるのか、半分以下になるのか、それよりも進むのか
ですが、壊滅はしないが減少はする。実感としては、その範囲内であると思っています。
ネットに溢れるフリーライド(タダ乗り)をしたコンテンツのせいで、だんだんとコンテンツ産業が縮小してきて、作られる作品ごとの予算が下がって来る。作られる新作の数が少なくなってくる。
そしてある日「最近作られる作品面白くないなぁ」そう思って原因を考えたときに、今まで乗っかってきた違法コンテンツが問題であると反省しても過ぎた時間は巻き戻りません。間違う前に正すべき物は正すべきです
正直、P2P等での違法コンテンツの蔓延を数年経験してきたことで、ただばら撒けば良くなるというわけではないと言うことがある程度はっきり見えてきた。と言うのが自分の意見です。
CDなどの音楽市場では、総合的に見て大きな影響が無かったデジタルコンテンツですが、高価な映像コンテンツでは少し事情が違っている、というのが本音なのでしょう。
それでは、ニッチ市場での違法コンテンツの影響はどうなのだろう? 宣伝効果の方が、売り上げの減少よりも大きい?
それでは、初音ミク等で作られた埋もれた才能の発掘はどれだけの効果があった? 他の産業の芽を潰して回ったであろう事に見合う価値はあった?
そういうのを一度ぐるりと見直して、それからもう一度コンテンツを考え直せるだけの時代になった、そういう時代になったのだ、と言うのが自分の意見です。
投稿者 baban 2008/03/29 at 10:46